第2章 『没頭』 第35話

半クラのイメージが全くできなかったが、取りあえず言われるがままゆっくりとレバーを離していった。


プスン…。


テル「あれ?」

ヤス「( ̄∇ ̄;)ハッハッハ 下手やなぁ…」

テル「何でエンストするん?」

ヤス「ちゃんとクラッチがつながる所を感じてないからや」

テル「う〜ん…。なんかイメージが掴めへんわぁ」

大樹「とりあえずもっかいやってみ」

テル「おお」



クラッチを握りながらキックを踏み、少しアクセルを開けながらエンジンを始動。
この手順は何となく分かった。


ヤス「プスン!」

テル「まだやっちゅうねん」

ヤス「ヾ(@>▽<@)ノ ぶぁっはははっははは♪」

テル「本間にうっとうしいの〜」

ヤス「あかん腹痛い (*≧m≦*)」

テル「もうええっちゅうねん」



完全に頭に血が上ったが、ここは一つ冷静にやってみよう。
半クラという位だから、きっとクラッチレバーを半分離した位で何か変化が
あるはずだ。


アクセルを少し開けながらレバーを半分くらいまで離して…。


テル「おっ!動き出した!!!」


プスン…。


ヤス「ヾ(≧∇≦ ) はっはっはっは!!!」

大樹「動きだしてからクラッチを離すのが早いねん」

テル「動いたから離してもた」

大樹「動きだしても半クラのままでキープして、ちゃんと走ってから離してみ」

テル「おお。なるほどな」

ヤス「でっきるっかな〜♪」

テル「お前は俺の邪魔したいだけやろ…」



動き出しても半クラをキープして、ちゃんと走り出してからレバーを離す…。


テル「おっ!おっ!!!」

大樹「そうそう、それでええねん」



ついに走り始めたのだが、すぐに異変に気が付いた。


テル「あれ?どうやってギヤチェンジするんや???」

第2章 『没頭』 第34話

ビ〜ン!!!


遠くの方から軽い2ストの音が聞こえてくる。
きっと大機のNS1だろう。


ヤス「あの音は大樹やな」

テル「やっぱ同じ原チャでも全然音の種類が違うなぁ」

ヤス「NSR50とかもこんな音やけど、やっぱめっちゃ速いで!」

テル「そうなん!?でもさすがに100kmまでは行かへんやろ?」

ヤス「甘いな。リミッターカットするだけで90kmは出るで」

テル「リミッター切るだけでそんなに出るん w( ̄▽ ̄;)w」



色々とお金をかけていじっているテルの原チャでさえ、まだ80kmほどしか出ない事を考えれば、1万円少々で90kmまで出てしまうという事実は衝撃だった。


テル「大樹のやつはリミッター切ってあるん?」

ヤス「切ってあるはずやで。前に乗った時も90kmは出たしなぁ」

テル「うわぁリアルに速いなぁ…」



当時のテルにとって90kmというのは未達の領域であった。
今からそのようなバイクに乗るのか?というワクワクと、まだクラッチ操作ができない不安とで気持ちがドギマギしていた。


ビ〜〜〜ン!!!


大樹「おう」

ヤス「おっそいわぁ〜」

大樹「だから寝起きやっちゅうねん(怒)」

テル「おお大樹!めっちゃ久しぶりやん♪」

大樹「本間久しぶりやのぉ。まさかこんな所で再会するとは思ってなかったわ(笑)」

テル「っていうか本間にでかなったなぁ…。ちょっと身長分けて欲しいわ」

大樹「じゃあ5cmだけやで」

テル「充分でございます」



久しぶりの再会という事もあり、くだらない会話が少しの間続いた。
そしてついにクラッチ練習が始まる。


ヤス「半クラって分かるか?」

テル「何それ?」

ヤス「こうやっていきなりクラッチを離すとエンストすんねん」



と言いながら、ヤスがクラッチレバーを一気に離した途端エンストした。


テル「うおっ!なんじゃそれ!?」

ヤス「だから少しずつクラッチをつなぐために半クラを使うわけよ」



ヤスがゆっくりとクラッチレバーを操作し、見事に発進する様子を披露した。


ヤス「とりあえずやってみな分からんから乗ってみる事やな」

テル「分かった。ゆっくり離したらいいんやな」



全くイメージが付かなかったが、取りあえず言われるがままゆっくりとレバーを離していった。


プスン…。


テル「あれ?」

ヤス「( ̄∇ ̄;)ハッハッハ 下手やなぁ…」

第2章 『没頭』 第33話

ヤス「とりあえずもうちょっと待ってから三宮方面に戻るか」

テル「本間に大丈夫かぁ?」



先ほどの警官とのやりとりで少し緊張がほぐれてしまっていたのだが、三宮という言葉でふと我に返ったようにあの恐怖が蘇ってきた。


ヤス「もう大丈夫やと思うで〜。でも車多いから色々面倒やけどなぁ」

テル「どう考えても車多いよなぁ」


週末にはマサヤ君の追悼暴走が控えており、ここで何かトラブルを起こしてしまうわけにはいかない事をヤスは分かっていた。しかも単車は後輩の物とはいえ借り物である。

これからどうするつもりよ?とでも言いたそうにHAWK2がこちらを向いている。


テル「でも単車ってほんま気持ちええなぁ!原チャとはえらい違いや」

ヤス「原チャと比べたらあかんわ(笑)テルも運転したらええのに」

テル「いやぁ、クラッチとか全然分からんからパスやわ」

ヤス「そうや!今から大樹呼んでクラッチの練習するか!?」

テル「今からやんの?」



以前にも説明したが、大樹とはテルと同じ幼稚園〜小学校に行った幼馴染である。
今はNS1というクラッチ付きの原チャに乗っており、クラッチ練習にピッタリな条件だ。


テル「今から呼んでも面倒臭いからこーへん(来ない)やろ!?」

ヤス「とりあえず電話してみな分からんやろ」


…。


ヤス「大樹かぁ?今何してんの?」

大樹「寝とった」

ヤス「また寝とんかい。いま宮本の神社にテルとおるからNS1で来てや」

大樹「テルってあのテルかいな。また久しぶりな名前やなぁ」

ヤス「ええから来いって」

大樹「お前ほんまに面倒臭いわ〜」

ヤス「はよ来いや」

大樹「本間に寝起きやからちょっと待ってくれや。すぐ行くから」

ヤス「おお」


テル「来るん?」

ヤス「来るって(笑)お前らめっちゃ久しぶりやろ?」

テル「小学校卒業以来やな」

ヤス「あいつめっちゃ背がでかなってるで」

テル「嘘やん!?俺とそんなに変わらんかったのに???」

ヤス「多分180くらいあるんちゃうか」

テル「( ̄▽ ̄;)!!ガーン 俺なんかまだ150ちょっとやのに…」



それはそうと、今からはじまるクラッチの練習が楽しみで仕方がない。
現時点では全くイメージができないが、みんなが運転できているのだから
俺にもできるだろうと簡単に考えていた。

実際はかなり四苦八苦する事になるのだが…。

第2章 『没頭』 第32話

「おいお前ら!こんな所で何しとんじゃ」


( ̄△ ̄;)エッ・・?


さっきのベンツに乗ってた人!?と一瞬頭が白くなったが、振り返ってその心配は無くなった。近所の交番の警官だ。


近くには明らかに暴走族と想像できる単車と無免許だろうと推測できる少年二人。
職務質問されてもおかしくない状況なのは言うまでもなかった。


ヤス「恋愛相談室や」

警官「こんなところでか?」

テル「しゃ〜ないやん、俺ら金ないもん」



とっさに出てきた言葉だが、なかなか息が合った返しだなぁと自分で思ったりもした。


ヤス「ちゃうねん、お回りさん聞いてや!こいつな、振られて本気で凹んでんねん」

テル「うるさいわ!」

ヤス「ちょっと振られたくらいで凹むなんかだっさいやろ!」

警官「ださいかどうかは分からんけど、わしが聞きたいのはそんな事じゃない」

テル「かわいかったかって?めっちゃかわいいっちゅうねん…」

警官「だから違うって…」

ヤス「人生の先輩として何かアドバイスしたってや〜」

警官「お前ら人の話し聞けよ…。取りあえず恋愛の話しは置いといてやなぁ」

テル「なんで置いとくねん(怒)」

警官「だから、俺が聞きたいのはその単車は誰のやって事」

ヤス「俺らが来たときから置いてあったから知らんで〜。なぁ!」

テル「おお。でもたまにこの単車見かけるよなぁ」

ヤス「よくこの公園に来るけど、たまに見かけるで」

警官「そうか…。取りあえず早く家に帰れよ」

テル「で、恋愛のアドバイスは?」

警官「もっといい女はいくらでもおる!」

ヤス「おお!めっちゃええ事いうやん(笑)」

警官「ええから早く帰れよ」



警官が立ち去ってすぐ、二人で爆笑した。
とっさのコンビネーションが炸裂し、見事に誤魔化せたのがあまりにも
おかしく、また真面目にアドバイスした警官の表情が何度も頭の中で思い
だされておかしくて仕方がなかった。

第2章 『没頭』 第31話

あっという間に黒ベンツが単車の1メートルほど後ろにピッタリとくっついた。

狩り「こらクソガキ止まらんかいボケが〜!!!」


ヘッドライトはハイビーム、後ろを振り返ると目の前にスーツ姿の怖そうな人が運転しているのが見える。かなり近い!

どうやら助手席にも後部座席にもそれっぽい黒ずくめの人がいるようで、もしも捕まったらとんでもない事になるのは容易に想像できる。


テル「めっちゃ人乗ってんで!?」

ヤス「おおやばいな。とりあえず撒き道に入るから落ちるなよ」



三宮はヤスにとって庭のような場所であり、細い入り組んだ道も全て把握している。
そういう面ではこれ以上心強いやつはいないだろう。

それにしても警察に追いかけられるのとは全く違うこの感覚は、背筋が凍るような恐怖があって体中から変な汗が出てくるのが分かる。
暴走族にとって警察以外にも天敵がいたとは全く知らなかった。


どんどんと繁華街から離れ、信号無視を繰り返しながら細い路地へと入っていく。
小回りがきく単車とは違い、ベンツは徐々に離れていく。


ヤス「ここに入ったらもうこっちのもんやで」


完璧ともいえる撒き方は拍手を送りたくなったが、もちろん心境はそれどころではない。


ヤス「そろそろ公園でも入って時間つぶすか…」

テル「そうやなぁ、ちょっと身を潜めるのがよさそうやな」

ヤス「じゃあ宮本の神社に行くか」



公園に着いて単車から降りると、ひざに力が入っていない。
全身の力が抜けてその場に座り込んでしまった。


テル「ベンツに追いかけられたらかなりビビルなぁ…」

ヤス「特に普通のチンピラとかじゃなくて本物やからな(笑)」

テル「あんなん捕まったら終わりやな」

ヤス「ドラム缶にコンクリート詰めされて海にポイってか(爆)」

テル「あほか、全然笑えへんし」

ヤス「さすがにそこまでは無いやろうけど、まともに帰してはくれへんわな」



「おいお前ら!こんな所で何しとんじゃ」


( ̄△ ̄;)エッ・・?


さっきのベンツに乗ってた人!?と一瞬頭が白くなったが、振り返ってその心配は無くなった。近所の交番の警官だ。

第2章 『没頭』 第30話

ヴォン!ヴォン! ヴォ〜ヴォヴォヴォ〜ヴォヴォ〜ヴォヴォヴォヴォ…


テル「めっちゃ気持ちいいやん!!!」

ヤス「そうやろ〜♪」



街行く人々の中には、こっちを見ながらもっと吹かせ!とノリノリであおってくる人もいてヤスはますます興奮してくる。


ヤス「テル!後ろでじっと乗ってるだけじゃなくて踊れ踊れ!!!」

テル「踊るん?」

ヤス「そうそう。背泳ぎしてるみたいに暴れるねん」

テル「落ちたら怖いやん…」



まだまだ単車の後部座席に慣れていないテルにとっては非常に難しいことだ。
しかし流れとしては踊らざるをえない状況である事は間違いない。


ヴォン!ヴォン! ヴォ〜ヴォヴォヴォ〜ヴォヴォ〜ヴォヴォヴォヴォ…


テル「こんな感じか???」

とにかく訳が分からないが、後ろで背泳ぎしているみたいに暴れてみる。
アクセルミュージックで半クラッチを使うたびに、体が後方に持っていかれそうになり冷や汗がでる。

ヤス「( ̄∇ ̄;)ハッハッハ まぁそんな感じやな」

テル「なんや、せっかく踊ってんのにいまいちって感じやろ?」

ヤス「まぁ今日はそんなんでええよ(爆)また追悼でみんなの踊り見たらええわ」

テル「確かに、一回くらいちゃんと見てからじゃないと分からんわ」



30分ほど経っただろうか、スローペースで三宮の街中をぐるぐると回っていた。
そろそろ違う所へ行こうかという雰囲気が流れてきたその時だった。


パパ〜〜〜ン!!!


耳が痛くなるほどのホーンの音と共に、もの凄い勢いで車が追いかけてくる。


テル「ヤス!何か来たで」

ヤス「はぁ?」



車を見ると…。


黒光りしたベンツだ!!!


ヤス「あかん!狩り(ガリ)や!!!!!」


狩りとは、暴走族を狙って車などで追いかけ回し、運が悪ければ本当に車で単車をはねてくる奴もいる。
もちろん拉致されて大変な目にあったり、転倒による大怪我をする事もある。
とにかく暴走では警察なんかよりも一番怖い存在なのだ、


ヤス「テルしっかり捕まっとけよ!」

テル「おう…」



あっという間に黒ベンツが単車の1メートルほど後ろにピッタリとくっついた。

狩り「こらクソガキ止まらんかいボケが〜!!!」

第2章 『没頭』 第29話

ヴォンヴォンッ!!!

激しい音と共に地下駐車場から出て、街中へと繰り出す。


ヤス「そういえばタオル持ってきてるか?」

テル「あっ…。忘れてしもたわ」

ヤス「まだまだやなぁ。じゃあとりあえずコンビニ行くで」



そうだった。

どう考えても違法改造&ノーヘル二人乗りで暴走行為に限りなく近い事を
するのだからタオルで顔を隠す必要がある。


ヤス「さすがに店の前に停めたら面倒な事になるから裏道に停めるわ」

テル「ちょっと隠す感じか」

ヤス「あんまり一目に付く所に停めるのはさすがによろしくないからな」

テル「色々と大変やなぁ」



ヤスの家から1分ほどの所にあるコンビニの裏道に入り、単車を停める。


ヤス「俺は単車の側におるから、タオル買ってこいや」

テル「おっしゃ、1枚でええやんな?」

ヤス「いや、俺の分も買ってきといて」

テル「なんで?」

ヤス「俺も忘れた。玄関にあるわ」

テル「結局忘れてますやん!」

ヤス「そんな事もあるわい」



コンビニで白いタオルを2枚、店員に不思議な顔をされながらも買った。
普通に考えて、高校生がジャージ姿でタオルを2枚買うなんてあまり無い
はずだ。バイトでコンビニの店員をしている自分でもそう思った。


テル「はいよ」

ヤス「じゃあいつでも顔を隠せるように、首にたらしとけよ」

テル「OK」

ヤス「ほな行きましょか」



ヴォンヴォンッ!!!


人通りが多い三宮の街を横目に、道路を流し始めた。
爆音に加えてノーヘル二人乗りなので、通り過ぎる人々がかなり見てくる。

テル「やっぱめっちゃ見てくるなぁ」

ヤス「単車は目立ってええなぁ♪みんなの期待に答えて吹かしまっせ!」


珍しくヤスが興奮しているのが伝わってくる。


ヴォン!ヴォン! ヴォ〜ヴォヴォヴォ〜ヴォヴォ〜ヴォヴォヴォヴォ…

第2章 『没頭』 第28話

ヤス「そういえばまだ車多かったか?」

テル「おおそうや、車も多いしパッツンもなんか多い」

ヤス「あちゃ〜。たまたまやろうけど面倒くさいなぁ」

テル「ちょっと待つ?」

ヤス「あほか。そんなん気合いで行くに決まってるやんけ!」

テル「そう来ると思ったわ(笑)」



ついに単車初走行が始まる。


ヤス「ほなケツ乗ってや」

なれた手つきでヤスが単車のエンジンをかけた。


ヴォンッ!!!


テル「うわ音でかっ!」

ヤス「直管やから当たり前やんけ。ええからはよ乗れっちゅうねん」



これがバブ(HAWK2)の音か…。
以前総長のマサミチが乗っていた単車とは全く音の種類が違う。
何か低くて図太いこの重低音が、好きな人にはたまらないのだろう。


テル「じゃあ乗るで〜」


平静を装ってはいるが、まともに単車にまたがる事すら未経験なので
うまくケツ(後部座席)に乗り方が分からなかった。


ヤス「おいおいっ、あんまり片方に体重かけんなって」

テル「わりわり。よっこいしょっと」

ヤス「ださいから俺の腰とか掴むなよ」

テル「何かコツとか無いん?」

ヤス「単車を寝かした時とかに急に動いたりせんかったらええよ」

テル「一緒に運転してるみたいに乗ったらいいんやな」

ヤス「そういう事やな。じゃあ行くで」

テル「あいよっ」



ヴォンヴォンッ!!!


激しい音と共に地下駐車場から出て、街中へと繰り出す。

第2章 『没頭』 第27話

今日の夜は単車の後ろに乗るという事もあり、いつもより学校にいる時間が
長く感じた。
とにかく一日中頭の中はまだ見ぬ「HAWK2」がどんな単車なのかで一杯でしつこいほど教室にある時計とにらめっこをしていた。

テルの頭にあるイメージのほとんどは漫画「特攻の拓」に出てくる単車がほとんどであり、まだマサミチが乗っていた単車しか本物の暴走族の単車というものを見たことが無い。

「やっぱ3段シートかなぁ…。ハンドルは上に上がってる?それとも鬼ハン?」

イメージばかりが先行し、肝心のHAWK2のスタイルとはかけ離れた妄想まで繰り広げられていく。


そして待ちに待った夜がやってくる。


ヤス「もしもしテル?」

テル「あいよ〜」

ヤス「とりあえず単車は家の下に停めてあるから来れる?」

テル「おっしゃ。じゃあ今から出るから10分くらいで着くわ」

ヤス「ほな待っとくわ」



電話では落ち着いた素振りをしていたが、内心はウキウキである。

急いで原チャを駆り出し、三宮にあるヤスの家まで急いだ。

三宮はいつもより人通りが多く、なぜかパッツン(パトカー)も多い。

こういう日に限ってなぜ多いのか非常に腹立だしい気持ちになったが、今から悪い事をしようとしているから意識が強く、そう見えるだけだろう。

ヤスの家の下にある薄暗い地下駐車場に入ったら、すぐにそれが分かった。


HAWK2だ!


パールホワイトに塗られたボディに低めの3段シート(通称「チョビ3」)、ヘッドライトは上に持ち上げられている(アップライト)。
ハンドルは上に上がっており、グリップ部は斜め下に下がっているスタイル。
空ぶかしするにはもってこいのスタイルだと見てすぐにわかる。

と単車に見とれていると、駐車場の奥からヤスが歩いてきた。


ヤス「どないよ!?」

テル「おお。めっちゃ族車って感じするなぁ!」

ヤス「せやろ?結構綺麗に乗ってるみたいやからなぁ」

テル「もちろん直管なんやろ?」


直管とはマフラー最後部に取り付けてある「サイレンサー(消音器)」を
付けていない、要は爆音仕様という事だ。
暴走族は基本的に直管だが、素材や厚み、開口部の大きさなどで大きく音が変わる。


ヤス「おお。確かBEETやと思うけどなぁ」

テル「BEET?」

ヤス「元々バブ(HAWK2)は低くて太い音出るからBEETがいいんやろな」

テル「なんか凄そうやな…」

ヤス「個人的には甲高いスネーク管とかが好きなんやけどなぁ」

テル「スネーク管???」



次々と出てくる名前に戸惑うばかりであった。
それもそのはず、基本は漫画で得た知識が頼りなので現実を知らないのだ。


ヤス「たぶん追悼でスネーク管付けてる単車がおるはずやから聞いてみ?」

テル「聞いたら分かるん?」

ヤス「ほんまに蛇みたいやからすぐ分かるわ(笑)」

テル「へぇ〜。そういえばRPM管ってどうなん?やっぱりいいん?」


もちろん漫画の受け売りである。
特攻の拓で頻繁に出てくるマフラーのメーカーなので、一種の憧れのような
ものがテルにはあった。


ヤス「P管かぁ…。俺もまだちゃんと聞いた事ないなぁ」

やはり漫画と現実とではギャップがあるようだ。


ヤス「そういえばまだ車多かったか?」

テル「おおそうや、車も多いしパッツンもなんか多い」

ヤス「あちゃ〜。たまたまやろうけど面倒くさいなぁ」

テル「ちょっと待つ?」

ヤス「あほか。そんなん気合いで行くに決まってるやんけ!」

テル「そう来ると思ったわ(笑)」



ついに単車初走行が始まる。

第2章 『没頭』 第26話

テル「そういえばヤスって単車運転できるん?」

ヤス「クラッチか?それくらい俺だってできるわいや」

テル「おお!なんか男らしい発言出たなぁ」

マサ「俺はできへんよ」

テル「お前は原チャすらまともに運転できへんやんけ(笑)」



マサも色々とヤンチャをしているのだが、原チャの運転だけはどうも
下手である。
一度だけテルの原チャも運転させてみたが、見ていてハラハラするほどの
不安定さを目の当たりにしてから二度と運転させないと心に誓ったのだ。


マサ「いやいや、俺のセンスに合わへんだけやって」

テル「言い訳にしか聞こえへんわ」

ヤス「テルはクラッチまだ運転した事ないんか?」

テル「きっかけが無いからなぁ」

ヤス「じゃあ今度、大樹(ダイキ)のNS1借りて練習するか?」

テル「えっ!?大樹ってあのダイキ?」

ヤス「そうやで。あいつは今でもずっと遊んでるで」



大樹はテルと幼稚園〜小学校と同じで、親同士ももちろん面識がある幼馴染
の関係である。
家も近かったこともあり、小学校の頃はよく一緒に遊んでいた仲だ。
ただし中学から私学へ進学したテルは、小学校を卒業してから一度も会って
いない。


テル「そうかぁ、あの大樹もヤンチャしてるんかぁ」

ヤス「いやいや、あいつはただ原チャに乗ってるだけやで」

テル「いや、あいつが普通に原チャを乗ってるとは思えへんな」

ヤス「まぁ人並みにヤンチャかな」

テル「何やその人並みのヤンチャって(笑)」

マサ「俺くらいって事やろ?」

テル「お前が人並みやったら基準がおかしくなるわ!」

ヤス「じゃあ俺が基準か?」

テル「ヤスが基準やったら世の中壊れるっちゅうねん」



そうこうしているうちにテルの家の近くに着いた。


テル「じゃあこの辺でエンジン切って家に戻るわ」

ヤス「じゃあ明日はHAWK2用意しとくわ♪」

テル「( ̄皿 ̄)うしし♪ めっちゃ楽しみやし!」

マサ「じゃあまたなヤス!」

ヤス「おお。またどっかでな」



そして記念すべき初単車走行の夜がやってくる。


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