第3章 『暴走』 第33話

生田に着く前からパラパラと単車が抜け始めた。
抜けると言う事は、その付近に単車を保管しているのだろうが、永らく神戸に住んでいても気が付いたことがない。
意識していなかったからなのか、原チャを乗り始めてまだ日が浅いからなのか。
いずれにしても今日の衝撃的な体験は一生忘れないだろうと確信した。

生田の手前で地元の仲間たちも抜け始めたので、便乗して抜ける。
今日の主役とも言えるマサミチとも目があったので何か会話するかと思ったがそうでもない。
暗黙の了解なのか、別れの際はあまり会話はせずに軽く単車を吹かしながら手を上げる程度らしい。
一つの大きなイベントをやり遂げた同士とでも言うのか、確かに言葉なんかいらない!と思わされる何かがあった。

 

テル「で、六甲方面にすんの?」

ヤス「そやな。他にいいとこ思いつかへんし、あいつら足無いし六甲から動けへんやろ」

テル「言うてる俺も送ってもらわな帰られへん」

ヤス「あ〜学校あるんか。明日行くん?」

テル「そりゃそうやろ!(笑)」

ヤス「まじめやなぁ」

テル「普通や!」

ヤス「六甲やったら家近いからええやろ」

 

確かに六甲からテルの実家までは5分程しか離れていないが、今から例の彼女とその友達二人と合流して特に得るものも無いであろう話しを冬の寒空の下で…と考えただけで気が重い。

うん。言うなら今だな。


テル「ヤス〜、俺先に帰るわ〜」

ヤス「はぁ?ほんまに言ってんの???」

テル「おお。すでに体キンキンに冷え切ってるしさ〜」

ヤス「確かに寒いなぁ。ほんなら俺も帰ろっかな〜」

テル「いやいや、ヤスは行ったらな彼女困るやろ?」

ヤス「ん〜、何とかなるやろ」

テル「好きにしてくれてもええけどさぁ…」


自分が言いだした事でまだ知らない三人がとても困ってしまうことに少しの罪悪感はあったが、気力も体力もすでに限界だった。


ヤス「ほなテルの家に直接行くで〜」

テル「よろしゅう」


いざ家に帰ると決まった途端、張りつめていた緊張感が解けたのか、急に寒さが身を貫くように痛く感じる。
しかし頭の中には妙に心地よかったあの爆音と排ガスの臭い、何度も最悪の事態が頭をよぎった橋の上でのパッツンとのバトル、草むらに隠れていた時の感情などが走馬灯のように駆け巡り、完全に興奮状態だった。


ヤス「家の前にある坂の上からエンジン切って下っていく感じでええか?」

テル「全然OK!」


テルの実家の前にある坂の真上からエンジンを切り、真っ暗でシ〜ンと静まり返った道を下っていく。


無事に帰ってきたんだ。


ヤス「ほなまた明日」

テル「学校終わったら連絡するわ〜」


実家の壁を登り、自分の部屋の窓から中に入る。
耳鳴りが明確に聞こえるほど静まり返っているが、風が無い分とても温かく感じた。

髪の毛、服は排ガスの臭いが染み付いている。
取りあえず部屋中がこの臭いで充満しそうなので、コッソリと洗濯機へ服を押しこんだ。
今からシャワーを浴びるのはさらに不自然なので、取りあえず朝まで我慢だ。

スウェットに着替え、布団にもぐりこんだ。

冷え切った体が溶けていくような感覚。
しかし興奮が収まっていないからか、不思議と眠気は無い。

目を閉じてもあの光景が延々と繰り返される。
取りあえず目覚ましをONにして…ってあと3時間か。
また今日も授業中爆睡だな。
43の近くに住んでいる奴いたかな。
まさか俺があの爆音の中にいたなんて思ってもいないだろう。

あ〜布団ってなんでこんなに気持ちいいんだろう…zzz

 

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第3章 『暴走』 第32話

ヤス「暴走の後、あいつらと合流するからお前も来るやろ?」

テル「来るやろっていうか、半強制やろ?(笑)」

ヤス「贅沢なやつやなぁ。彼氏おらん女子の所に連れて行ってやろうと言ってるのに感謝せんかい」

テル「ああそうですね」

ヤス「これで解散!みたいなんじゃなくて、徐々にみんな散っていくから、様子見て俺らも散るで」

テル「あ、そういう感じなんや」

ヤス「こんだけ騒がしくしといて、一か所に単車も停めて集まるとか危なすぎるわ」

テル「確かに…」


当時は携帯電話もほとんど普及しておらず、どういう連絡手段を持ってこのようなイベントがあるということを周知していたのだろうかと、当時を振り返りながらふと感じる。

待ち合わせも含めてだが、どことなく「いつもの場所」に行けば誰かいる。そういった暗黙の了解が主な交流の手段だったのだろう。

自らアンテナを立てていないと情報は全く入って来なかった分、第三者との交流や情報交換に関しては重視されていたし、知識を得るためには先輩や先生方からの教えが今よりも圧倒的に重視されていたと感じる。

今でこそグーグル先生に聞けば知りえない情報など無いと言えるほど色々溢れているとも感じるが、入手した情報の確からしさをジャッジできるスキルを合わせて身に付ける必要があるのは言うまでもない。


テル「じゃあ生田(三宮手前)あたりで抜けたら、六甲に戻りやすいやん」

ヤス「おお、そのつもりや」

テル「で、どこで待ち合わせしてんの?」

ヤス「何時に解散するかも分からんのに、そんなん無いわ」

テル「まぁそやけど…」

ヤス「こういう時はいつもの場所や」

テル「いつもの場所…ね(笑)」

ヤス「あいつらどこ行くやろか」

テル「分かってないやんけ!(笑)」


たった一晩の出来事であったが、あわや逮捕されていたかもしれない状況に追い込まれた直後とは思えないほど、天国と地獄が交錯するような目まぐるしい一夜だ。

漫画かと思うような数々の単車、どうやってるんだ?と思うような見事なアクセルミュージック。
そもそも、こんなに一杯の単車は普段どこに置いてあるの?という率直な疑問もある。

柵を乗り越えて隠れていた時は、正直言って生きた心地が無かった。
あっという間に集団に追いついた時はヤスの凄さを改めて実感したが、次はそんなヤスの彼女とその友達との合流に向けて動き始めている。

う〜ん、不思議だ。

学校の同級生はとっくに寝ているんだろうなぁ。
きっと暴走中の音がうるさくてイライラしている友人もいるだろう。
でもまさか、その中に俺がいるなんて夢にも思ってないだろう。

まだ終わってはいないが、今夜経験したことを振り返ってみる。


テル「なんか今日一日で色々あったなぁ…」

ヤス「おお、なんか分からんけどこういうのワクワクするやろ」

テル「普通に生きてて経験する密度を遥かに超えてるよな(笑)」

ヤス「ま、俺は暴走族じゃなくて走り屋やから毎週はいらんけど、たまにはええよな」

テル「周りからみたら立派な暴走族ですけど?」

ヤス「は〜?こんな真面目な人間やのに、あいつらと一緒にすんな」

テル「うん、普通はその違いなんて分からない」

ヤス「ほな、悪い人たちに別れを告げて、真面目な俺らはちゃっちゃと六甲戻ろか〜」

 

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第3章 『暴走』 第31話

テル「そういえば新しい彼女、美香やっけ? 見に来てへんの???」

ヤス「六甲あたりで見てるんちゃうか〜」

テル「おっ♪ もうすぐやん」

ヤス「真美と失恋したばっかのくせに、人の女の事気にしてどないすんねん」

テル「うわっ!!! 今日は忘れとったのに思い出させやがって…」

ヤス「どっかにええ女おらんかのぉ〜」


ちくしょう。


テル「でもすぐに気付くもんかねぇ?」

ヤス「たぶん何人かで派手な格好しておるから分かると思うわ」

テル「あ〜、よくあるジャージ系か」

ヤス「どこおってもすぐ分かるやつな(笑)」


とはいえ、ギャラリーも派手なジャージを着ている奴が多い。


テル「なんか43と違って、ここでパッツンに追われても余裕っぽいなぁ」

ヤス「おっ、何となく分かってきてるやん。2車線しかないし歩道あるしな」

テル「しかもこれだけ台数おったらパッツンは絶対に前に出れへんやろ」

ヤス「ま、そういうことやな。おっ?」

テル「ん?」

ヤス「たぶんあの交差点におる3人組やわ」

テル「ピンク、赤、白…。あれか(笑)」

ヤス「あのピンクが美香や」

テル「めっちゃ手振ってるし!?」


美香「ヤスく〜ん!」


目の前を通り過ぎる時に無言でヤスが手を上げる。テルも便乗して手を上げる。


テル「なんか…めちゃ美人ちゃう?(笑)」

ヤス「誰の彼女やと思ってんねん」

テル「あ〜、余計むかつく」

ヤス「そういえば他の二人、彼氏おらんはずやで」

テル「そんなん見てる余裕ないわ…」
テル「なんだかんだ、ちゃっかり彼女作ってるもんな〜」

ヤス「当たり前やんけ。どっかのアホみたいにいつまでも引きずるとかないし」

テル「ちっ (ーー;)」

ヤス「暴走の後、あいつらと合流するからお前も来るやろ?」

テル「来るやろっていうか、半強制やろ?(笑)」

ヤス「贅沢なやつやなぁ。彼氏おらん女子の所に連れて行ってやろうと言ってるのに感謝せんかい」

テル「ああそうですね」

ヤス「これで解散!みたいなんじゃなくて、徐々にみんな散っていくから、様子見て俺らも散るで」

テル「あ、そういう感じなんや」

ヤス「こんだけ騒がしくしといて、一か所に単車も停めて集まるとか危なすぎるわ」

テル「確かに…」

 

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第3章 『暴走』 第30話

色々あったが、いよいよ合流だ。
先の方に見える2号線に、集団が通り過ぎていくのが見える。


ヤス「はい、来た〜!」

テル「あっ!?」


合流した位置は、信じられないが集団後方の原チャ軍団の中だ。


タケシ「お前ら、遊びすぎやろ〜!!!」

テル「あっ、タケシ〜!」

タケシ「いやいや、あの状況で一台で遊ぶとか頭ぶっ飛んでるやろお前ら…」

ヤス「あほか!(笑) そんな無茶なことせ〜へんわ」

テル「あれでも全開やったのに全然走らんくてさぁ…。ほんま終わったと思ったし」

タケシ「そうならそうって言えや〜」

ヤス「必死にアピールしてんのにお前ら無視して先に行ったやんけ」

タケシ「いや、あいつらアホやなぁっていう先入観しか無かったし(笑)」

テル「限度があるわっ(笑)」

タケシ「ええやん、なかなかできへん経験したって事や」

ヤス「もうあんな思いいらんわ」

テル「横道全然ない状況で3台やでっ」

タケシ「くっくっく」


あの時の危機を何とか伝えようとしても伝わらない…。
伝え方が下手という事ではなく、タケシもきっと色々なピンチを経験してきたからこそ、普通に聞いていれるのだろう。


テル「そういえばタケシ、パクられたことあるん?」

タケシ「あるで〜。カンベ入っとった(笑)」

※カンベとは少年鑑別所の通称である。


テル「まじかっ(笑)」


少し前までなら動揺していたかもしれないが、テルなりに色々な経験をした事で笑って聞けるようになっていた。


タケシ「カンベくらい何ともないわ〜。なぁヤス!」

ヤス「俺はまだ入ってないしっ」


逆にさすがだ…。


テル「そういえば2国(国道2号線)は歩道から見てる人多いなぁ」

ヤス「ヨンサン(国道43号線)と違って分離帯ないから見やすいねん」

テル「なんかテンション上がるわ♪」

ヤス「ま、そんなもんや」

テル「そういえば新しい彼女、美香やっけ? 見に来てへんの???」

ヤス「六甲あたりで見てるんちゃうか〜」

テル「おっ♪ もうすぐやん」

ヤス「真美と失恋したばっかのくせに、人の女の事気にしてどないすんねん」

テル「うわっ!!! 今日は忘れとったのに思い出させやがって…」

ヤス「どっかにええ女おらんかのぉ〜」

 

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第3章 『暴走』 第29話

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テル「あっ!?」

ヤス「聞こえてきたな。もうすぐや」


普通に運転するよりも圧倒的に遅い速度で進んでいるのだろう。
集団には思っていたよりも早く合流できそうだ。


テル「みんなさぁ、俺らがトラブってこうなった事分かってるんかなぁ」

ヤス「分かってたら一台を放置することなんか無いわ」

テル「そうなんかなぁ」

ヤス「いやぁ、でも久しぶりにやばかったなぁ」

テル「半分諦めたもん」

ヤス「まだ原チャの調子悪いから、同じ場面になったら結構やばいで」

テル「合流してある程度たったら、先に抜けたら?」

ヤス「おお、そのつもりや」


真偽のほどは分からないが、とりあえず合流してから分かるだろう。


ヤス「2号線は43よりも狭いから、挟まれやすいねん」

テル「挟まれたらどないするん?」

ヤス「何とかするw」

テル「何その適当な感じ?w」

ヤス「小道は多いから、何とかなるもんや」

テル「小道に関しては無敵やもんなw」

ヤス「さぁそろそろやな」


音がかなり近い。ほぼ真横にいる感じだ。
しかし後ろからの合流は挟まれる可能性もあるので、どうするつもりなのだろうか。


テル「真ん中くらいに合流すんの?」

ヤス「おお。絶妙なタイミングで合流したるから見とけ」


色々あったが、いよいよ合流だ。
先の方に見える2号線に、集団が通り過ぎていくのが見える。


ヤス「はい、来た〜!」

テル「あっ!?」


合流した位置は、信じられないが集団後方の原チャ軍団の中だ。


???「お前ら、遊びすぎやろ〜!!!」


第3章 『暴走』 第28話

テル「なんか一気に疲れたわ…」
ヤス「慣れてへんから余計やろ(笑)ええで、こっから俺運転で追いかけるし」


まさに危機一髪であった。
視界にパトカーが見えてからほとんど息を止めているような状態だったので、少し息切れ状態になっているのが分かる。


ヤス「とりあえずあいつら戻ってこんかったらええけどなぁ」
テル「戻ってきたら、それこそ原チャ調べるんちゃう?」
ヤス「確かにそうやな。今のうちに動くか」
テル「おお。なんかたった5分でもここに隠れてる方がやばそうやし」
ヤス「よっしゃ決まりや。ほな溝から原チャ出そか」

数分前に慌てて登ったフェンスを落ち着いて登り、とっさの判断で溝に落とした原チャを二人で持ち上げる。

ヤス「お待たせ…。すまんな、手荒な真似してしもて」

ヤスにも愛車精神のような物があったのか…と余計な事を考えつつ、原チャの後ろに座る。

テル「みんなどの辺走ってるんやろ?」
ヤス「今は2国(国道2号線)を神戸に向かって走ってるはずや」
テル「あれ…? ふと思ってんけど、ヤスがそこまで読めるって事はポリもルート分かってるって事よな?(笑)」
ヤス「ま、そういう事やな(笑)」
テル「な〜んか複雑やな(笑)」
ヤス「そんな細かい事はええねん。ほな向かうで〜」

どこを通るか分かっている警察側と、読まれている事を分かっている暴走側。
逆に読まれている事を踏まえた行動というのも考え方によっては面白い。

ヤス「あれぇ?ここ左行ったらあそこに出れるはずやけどなぁ…」
テル「はあ!? こんなとこまで来ても道覚えてんの???」
ヤス「当たり前やんけ。道は全部つながってるんじゃ」
ヤス「あっ、そうやそうや。ここはあそこにつながってるからこっちやな」
テル「(変態め…)」

テル「あれ?そういえば2国走って追いかけへんの?」
ヤス「下手したら挟まれるかもしれんから、裏道で先回りする」
テル「ヤスにしかできんわそれ(笑)」
ヤス「あほか、基本じゃ」

テル「あっ!?」
ヤス「聞こえてきたな。もうすぐや」

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第3章 『暴走』 第27話

ヤス「まじか…」

テル「あっ…」


まだ全体像は見えないが、数百メートル先から赤色灯がくるくると回りながら、ゆっくりとこちらへ進んできた。


ヤス「下手に動いたらばれるから、あいつらが原チャに気付いて更に俺らに気付いたらダッシュすんぞ」

テル「どこにむかって???」

ヤス「答えなんか無いわw でも後ろ左右に散るぞ」

テル「あえて?」

ヤス「それである意味二分の一の確率や」

テル「しびれるなぁw」


少しずつパトカーが近づいてくる。
あとは運を天に任せる他ない。


ヤス「さっきのやつらと同じやったら終わりや。確実に原チャに気付く」

テル「とりあえずどこに走るか考えとこ…」

ヤス「二分の一ってさっき言ったけど、見つかったらまぁ終わりやw」

テル「いや、逃げ切る」

ヤス「さぁ吉と出るか凶と出るか」


早ければそろそろ原チャを認識できそうな距離まで近づいて来ている。



「たのむっ!」



暗闇に強烈な光を放つ赤色灯が目にこれでもかと言う程飛び込んでくる。



「たのむっ!!!!!」



テル「あっ…」

ヤス「ちっ。減速しやがったな」


原チャの手前でパトカーが減速をはじめてしまった。

最終手段に出るしかない、そう思ったその時だった。


ヤス「っしゃ!」

テル「うおっ!?」


確かに減速はしていたが、停止することなく通り過ぎたのだ。


テル「奇跡やっ(涙)」

ヤス「たぶんさっきの奴らと違うんやろな。でも溝に原チャ捨ててあるのに調べへんとか意味不明やな(笑)」

テル「変な汗いっぱい出たし…」

ヤス「とりあえずこのまま5分くらい待機して、みんなと合流するか」


そう、みんなとはぐれてしまい、さらに逃げ通す事に夢中になって忘れてしまっていたが、今は追悼暴走の最中なのだ。


テル「なんか一気に疲れたわ…」

ヤス「慣れてへんから余計やろ(笑)ええで、こっから俺運転で追いかけるし」

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第3章 『暴走』 第26話

左にまがった道は街灯がほとんどない真っ暗な細い道だった。
この先、いつ行き止まりになるかも全く見当がつかない。


ヤス「あっ、あそこに空き地っぽいのがあるやん!」

テル「あの草のとこか?」

ヤス「そや!あいつらがこっち来る前に、この辺で原チャ隠して一気に走って、フェンス登って草の中隠れるぞ!」

テル「そういう感じ!?」

ヤス「もうそれしかない!」


隠すと言ったってそれほど都合よく原チャが隠れるような場所などない。


ヤス「没収覚悟で溝に捨てる!」

テル「まじっ!?」

ヤス「名残惜しんでる場合ちゃうわ!捕まったらどうせ没収じゃ」

テル「と…とりあえずどうすんねん」

ヤス「エンジン切れっ!」


言われるがままにエンジンを切り、唯一の明かりであった原チャのライトが消えた。
辺りは一面真っ暗になり、息を飲むほどの静けさを感じる。


ヤス「とりあえず貸せっ!」


停止した原チャをヤスが押し始め、おもむろに溝へと落とした。


テル「あっ!?キーは抜き忘れてんで!!!」

ヤス「わざとじゃ!家の前に鍵付けて置いてたら盗まれたって言えるやろ」


こんな時までどこまで冷静な対処ができるんだと感心したのも束の間。


ヤス「次は俺らが隠れるぞっ!」

といったと同時に、ヤスがフェンスに飛びついて登り始めた。
テルも無心でフェンスを登り、向こう側の草むらへと降り立った。

ここ最近、誰も足を踏み入れていないんだろうと容易に想像がつくほど雑草が生い茂り、身を隠すにはこれ以上ないほどの環境であった。

ちなみにここからは当分、聞こえるか聞こえないか程度の声で会話している。


ヤス「とりあえず15分待つか…」

テル「なんで15分なん?」

ヤス「それ以上あいつらは探さへんからや」

テル「そんなもんでやめるん?」

ヤス「まだみんな走ってるから、そっちの追跡を放置するわけにはいかんしな」

テル「でもこの辺におるってばれたら徹底的に探すやろ?」

ヤス「時間が経てば経つほどどこまで逃げたか分からんくなるし、パッツンが入れへん所やと車から降りなあかんから、あんまり積極的には来れへん」

テル「じゃあこっから15分が勝負ってことか」

ヤス「祈れ。」


風が吹くと雑草がざわめく音が聞こえる。
最近はとにかく遊び通している事もあり、冷静に夜風を感じる事もなかった。
これだけ緊迫している状況にも関わらず、なぜか心地よく感じてしまう。


テル「来〜へんなぁ」

ヤス「来たら終わりやと思え」


かなり遠くの方で単車の音がかすかに聞こえる。
みんなは自分達がこういう状況に置かれているかもしれないと少しくらいは気にしてくれているのだろうか。
とにかくこの場をやり過ごし、早く再合流したいと感じていた。


ヤス「まじか…」

テル「あっ…」


まだ全体像は見えないが、数百メートル先から赤色灯がくるくると回りながら、ゆっくりとこちらへ進んできた。

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第3章 『暴走』 第25話

ヤス「あかんっ!!!」


一瞬の隙をついて、パトカー1台が前に抜けだした。


テル「うわっ!?」


すぐに車体を横に向けて急停止し、進路を塞ぐと同時に警察官が一気にパトカーから降りはじめる。


ヤス「よけろぉぉぉぉ!」

テル「うぉぉぉぉ!」


全てのドアが開き、飛び出してきた警察官が原チャに飛びつこうとしている脇を間一髪左にかわした!

左側車線で何とか体勢を整える。


ヤス「ホッとしてる間はないで、次も来よるっ!」

テル「おう!」


残りの二台が引き続き前に出ようと、右側を加速してきている。


ヤス「テル右やっ!!!」


ヤスが後部座席から右側に体重をかけ、合わせてテルも右側へバイクを寝かしこむ!
思った以上にリカバリーが早かったのか、パトカーが慌てて急ブレーキを踏んだ。


拡声器「くぉらおまえらぁっ!ええかげんに止まらんかいっ!」


まるで謝罪会見を行なっている芸能人のように、カメラのフラッシュが止まらない。
すぐにさっき停車していたパトカーも追い付いてくる。


ヤス「もうすぐ橋が終わるはずや!」

テル「終わったらどうすんねん!?」

ヤス「とりあえず左に曲がるとこあるから、直進すると思わせて一気に左に入るぞ」

テル「分かった、フェイントな」


右をガードしたら左から一台前に出られ、そのたびに前で待ち構えているパトカーを避けて次に備える。

時間的に数分だったと思うが、1時間以上の攻防を行なっているように感じるほど、凄まじい駆け引き。


ヤス「見えたあそこやっ!直前まで左を見んなよっ!」

テル「気が付いてないフリな」


橋の終盤は若干の下り坂になっており、速度が出ない原チャにとって非常にありがたい環境だ。
少しずつ車速が上がっていき、ようやく60km/hほどに達したその時だった。


ヤス「ブレーキ無しで曲がれぇ〜!!!」

テル「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」


二人の体重と旋回Gが原チャにかかり、車体が限界まで沈み込んでいるのが分かる。
さらにサイドスタンドが路面と接触し、聞いた事がないようなギャー音が鳴っている…。


テル「こける〜!!!」

ヤス「気合いじゃボケ〜!」


不意をつかれたのか、パトカーは同じく左に曲がろうとしたが連携が取れず、一旦減速しているようだ。


左にまがった道は街灯がほとんどない真っ暗な細い道だった。
この先、いつ行き止まりになるかも全く見当がつかない。


ヤス「あっ、あそこに空き地っぽいのがあるやん!」

テル「あの草のとこか?」

ヤス「そや!あいつらがこっち来る前に、この辺で原チャ隠して一気に走って、フェンス登って草の中隠れるぞ!」

テル「そういう感じ!?」

ヤス「もうそれしかない!」

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第3章 『暴走』 第24話

ヤス「ちっ。また来たな…」

テル「あ…いつの間に」


存在感を完全に消していたようだ。

3台がピッタリと集団の後ろに付いている。


ヤス「さぁケツ持ち部隊のお仕事しにいきますか〜」

テル「俺が運転か〜」


「一気にまくぞ〜!!!」


どこからともなく聞こえたかと思うと、単車が一気に加速をはじめた。


ヤス「こっから当分、脇道がない橋に入るから、みんなが離れるまでケツ持ちや」

テル「なるほど、俺らがおったら前に出れへんからやな」

ヤス「とにかく前に出られんかったら何とでもなる。原チャが4台おるから余裕やろ」

テル「取りあえず邪魔しといたらええんやな」


そうこうしているうちに片側3車線の大きな道路に入り、今まで静かに追従していたパトカーが一斉にサイレンを鳴らし、原チャの間を通り抜けようという激しい動きへと変わった。


ヤス「俺が後ろ向きながらパッツンに合わせて原チャコントロールするから、周りの原チャ連中との距離感とか見とけよ」

テル「はいよっ」


さすがに脇道がない3車線とは言え、原チャ4台が横一列に並んでいるとパトカーは前に出られない。
パトカー1台あたり最低3人は警察官が乗り込んでいるようで、窓から身を乗り出して写真を撮ったり何かを叫んだりしている。
拡声器を使ってかなりの暴言も吐いているが、それらの声に反応する訳もなく、淡々と前方の単車軍団が離れていくのを待つ。

しかしその時からテルは、ちょっとした異変を感じていた。


テル「なんかパワー感が無くなってるような気がすんねんけど」

ヤス「なんて?あんまり聞こえへん」

テル「気のせいかな…」


色々と改造しているヤスの原チャにとって40km/h程度は全然余裕がある速度なのだが、いつもよりアクセルを多く開いている気がする。

橋の真ん中あたりまで進んだ所で、他の原チャ軍団が前方に向かって右手を振っている。


ヤス「ケツ持ち終了や。あいつらも加速しはじめるから、パッツンに前に出られん程度に加速して付いていけよ」

テル「お、おう…」


原チャ軍団もヤスと同じようにそれなりに改造しているため、軽く60km/hを超える速度まで加速を始めた。
テルも同じように加速をしようとアクセル全開にしたが、やはりいつもの加速感が無い。


ヤス「おい遊びは終わりやっ!!!はやく付いていけって!」

テル「ちゃうねん、全開にしてるんやって(汗)」

ヤス「うそやん!?」


何かおかしいと感じたのか、ここぞとばかりにパトカーが隙間を狙って加速してきた。


ヤス「そうはさせるかボケ〜!」


右の隙間を狙ってきたら原チャを一気に右へ振り、そのせいで手薄になる左側を次の一台が狙ってくるので慌てて左へ振り、たった数十秒のやり取りが異様に長く感じた。

こちらの異変を察知してくれたのか、先行していた原チャ軍団の2台が速度を落として合流した。かに見えた…。


「お前ら遊んどったらパクられる(捕まる)ぞ〜(笑)」


と言い残し、またすぐに加速して離れていく。


テル「ちゃうんです、全開にしてるけど速度出なくて…」


テルの声は届かず、原チャ1台VSパトカー3台の構図は継続となった。

っとその時だった。


ヤス「あかんっ!!!」


一瞬の隙をついて、パトカー1台が前に抜けだした。


テル「うわっ!?」


すぐに車体を横に向けて急停止し、進路を塞ぐと同時に警察官が一気に降パトカーから降りはじめる。


ヤス「よけろぉぉぉぉ!」

テル「うぉぉぉぉ!」

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