第3章 『暴走』 第33話

生田に着く前からパラパラと単車が抜け始めた。
抜けると言う事は、その付近に単車を保管しているのだろうが、永らく神戸に住んでいても気が付いたことがない。
意識していなかったからなのか、原チャを乗り始めてまだ日が浅いからなのか。
いずれにしても今日の衝撃的な体験は一生忘れないだろうと確信した。

生田の手前で地元の仲間たちも抜け始めたので、便乗して抜ける。
今日の主役とも言えるマサミチとも目があったので何か会話するかと思ったがそうでもない。
暗黙の了解なのか、別れの際はあまり会話はせずに軽く単車を吹かしながら手を上げる程度らしい。
一つの大きなイベントをやり遂げた同士とでも言うのか、確かに言葉なんかいらない!と思わされる何かがあった。

 

テル「で、六甲方面にすんの?」

ヤス「そやな。他にいいとこ思いつかへんし、あいつら足無いし六甲から動けへんやろ」

テル「言うてる俺も送ってもらわな帰られへん」

ヤス「あ〜学校あるんか。明日行くん?」

テル「そりゃそうやろ!(笑)」

ヤス「まじめやなぁ」

テル「普通や!」

ヤス「六甲やったら家近いからええやろ」

 

確かに六甲からテルの実家までは5分程しか離れていないが、今から例の彼女とその友達二人と合流して特に得るものも無いであろう話しを冬の寒空の下で…と考えただけで気が重い。

うん。言うなら今だな。


テル「ヤス〜、俺先に帰るわ〜」

ヤス「はぁ?ほんまに言ってんの???」

テル「おお。すでに体キンキンに冷え切ってるしさ〜」

ヤス「確かに寒いなぁ。ほんなら俺も帰ろっかな〜」

テル「いやいや、ヤスは行ったらな彼女困るやろ?」

ヤス「ん〜、何とかなるやろ」

テル「好きにしてくれてもええけどさぁ…」


自分が言いだした事でまだ知らない三人がとても困ってしまうことに少しの罪悪感はあったが、気力も体力もすでに限界だった。


ヤス「ほなテルの家に直接行くで〜」

テル「よろしゅう」


いざ家に帰ると決まった途端、張りつめていた緊張感が解けたのか、急に寒さが身を貫くように痛く感じる。
しかし頭の中には妙に心地よかったあの爆音と排ガスの臭い、何度も最悪の事態が頭をよぎった橋の上でのパッツンとのバトル、草むらに隠れていた時の感情などが走馬灯のように駆け巡り、完全に興奮状態だった。


ヤス「家の前にある坂の上からエンジン切って下っていく感じでええか?」

テル「全然OK!」


テルの実家の前にある坂の真上からエンジンを切り、真っ暗でシ〜ンと静まり返った道を下っていく。


無事に帰ってきたんだ。


ヤス「ほなまた明日」

テル「学校終わったら連絡するわ〜」


実家の壁を登り、自分の部屋の窓から中に入る。
耳鳴りが明確に聞こえるほど静まり返っているが、風が無い分とても温かく感じた。

髪の毛、服は排ガスの臭いが染み付いている。
取りあえず部屋中がこの臭いで充満しそうなので、コッソリと洗濯機へ服を押しこんだ。
今からシャワーを浴びるのはさらに不自然なので、取りあえず朝まで我慢だ。

スウェットに着替え、布団にもぐりこんだ。

冷え切った体が溶けていくような感覚。
しかし興奮が収まっていないからか、不思議と眠気は無い。

目を閉じてもあの光景が延々と繰り返される。
取りあえず目覚ましをONにして…ってあと3時間か。
また今日も授業中爆睡だな。
43の近くに住んでいる奴いたかな。
まさか俺があの爆音の中にいたなんて思ってもいないだろう。

あ〜布団ってなんでこんなに気持ちいいんだろう…zzz

 

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