第3章 『暴走』 第1話

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長田まで単車を取りにいき、三宮に帰ってきた時にはすでに街は夜のネオンで
満たされていた。

こういう時に限って、仲良さそうに腕を組み合って歩くカップルが目に付く。

「ちくしょう…」

妬み。

幸せそうな時間をぶっ潰してやろうという気持ちが沸々とわいてくる。


ヴァンヴァンヴァンヴァヴァヴァ〜バババッヴァヴァ〜バババッヴァ…


「えっ!?」

という表情でカップル達が爆音の発生源を慌てて確認する。

「見たらあかん…」

という雰囲気を出しながら、そそくさと足早に立ち去っていく。


お酒の勢いもあるのだろう。
スーツ姿の兄ちゃん達がニヤニヤしながらこっちを見ている。


ヤス「なんやあいつら」

テル「行こ」


兄ちゃん達の目の前に単車で正面からアクセル全開で向かっていく。
慌てたように道を開けるが、目的は通過ではない。

急ブレーキをかけてタイヤを鳴らしながら目の前で単車を止める。

テル「何や?」

兄ちゃん「いや、何も無いです」

テル「はぁ?」

ヤス「調子のって見とったらあかんぞコラ」

兄ちゃん「すんません…」

テル「何も無いんやったらはよ行けや」


イライラしていた。

心が壊れるとここまで人は変わるのかと自分で不思議だった。


テル「ヤス〜。この辺おもんないからヨンサン(43号線)行こ」


全てが敵に見えた。

明らかに自分の目つきが悪い。
目尻が上がり、狐のような目になっているのが分かる。

何の根拠もないが、全てを壊せる気がしていた。

この姿を真美ちゃんに見られたら、今以上に幻滅されるのは分かっている。
しかしこうなったのは真美のせい、だからよりを戻して元の姿に戻してくれ!
と絶対に叶うはずが無い方法でSOSを出しているのだと自分でも分かる。

テルの世界がたった一日で変わった。

すれ違う車が幻想のように見える。
心ここにあらずという言葉はこういう時に使うのだろう。

単車の排ガスの臭いが妙に心地よい。

二人の乗った単車は爆音を撒き散らしながら、ヨンサンへと吸い込まれていった。


第3章 『暴走』 第2話

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単車の排ガスの臭いが妙に心地よい。

二人の乗った単車は爆音を撒き散らしながら、ヨンサンへと吸い込まれていった。

ヨンサンの頭上には阪神高速が通っている関係で、音の反響が凄い。
エンジンを吹かすと町中に響き渡っているかのような大音響が響き渡り、これぞ
醍醐味!という快感を得る事ができる。

そのせいもあってか、ヤスが延々と吹かし続けている。
3車線の道路だが車はほとんどおらず、自由を感じる瞬間だった。

ヤス「そういえば住吉に行った事あったっけ?」

テル「何かあるん?」

ヤス「このへんやったら結構大きい族があるわ。たぶん公園におるんちゃうか?」

テル「へ〜。行った事無いなぁ」

ヤス「ほな近いし、ちょっと顔出してみよか」


大きい族。
見かけた事はあっても、その輪の中に入っていくのは想像したことがなかった。

ちょっと前の自分なら恐さを感じていたはずだが、この日のテルには何の感情も
芽生えなかった。

いや、正確には状況は違っても自分と同じような感情を持った仲間がいるんだろう
というちょっとした安堵感のような感覚だったのかもしれない。

ヨンサンから住宅街へ入っていき、細い道を行くと公園があった。
暗くてよく見えないが、遠めに見ても中に単車が5台は止まっている。

こっちの単車の音に気づき、全員が立ち上がってこちらを警戒しているようだ。

エンジンを止め、惰性で公園内へ入っていく。


ヤス「まいど〜」

???「真島か?」

ヤス「おう。久しぶりやのぉタケシ」

タケシ「相変わらずやなぁ。あれ?ケツに乗ってるのって…」

ヤス「わしの連れ、テルや」

テル「あれ〜?」

タケシ「やっぱそうやんなぁ!?」


まさかの再会であった。

テルが実家の近くで子供の頃よく遊んでいた友達、タケシが目の前にいるのだ。
記憶は定かではないが、タケシはいつだったか引っ越して依頼会っていなかった。

タケシ「テルちゃ〜ん、悪い事ばっかやっとったらあかんで〜」

テル「よう言うわ本間、お前こそ何やってんねん(笑)」

タケシ「俺は誠実な人生をまっとうしてるだけやで」

テル「そんなん俺もやっちゅうねん」

今まで思い出すことがなかった友人との思わぬ再会に、昔の思い出が一気に
湧き出してくる。


ヤス「テルは失恋で人生お先真っ暗やねんな」

タケシ「うわっ。もしかして病んでる人!?」

テル「いらんこと言うなっちゅうねん。別に病んでへんわ!」

タケシ「そういえば明日の追悼出るん?」

ヤス「単車で出ようと思ったけど、テルが慣れてないから原チャで出るわ」

テル「そうなん?」

ヤス「だって、あのクラッチ操作やったら無理やって ( ̄m ̄〃)」

タケシ「なんや、まだ下手っぴかいな」

テル「いやいや、こないだ1回乗っただけやで!?」

タケシ「それやったら原チャ確定やな。」

ヤス「やろ?」

テル「なんかむかつく…」

ヤス「ええやん。取り合えずどういう感じか遠めで見る感じで」


馬鹿にしているような二人の忠告だが、本当に正解だった。


第3章 『暴走』 第3話

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タケシ「それやったら原チャ確定やな。」

テル「なんかむかつく…」

馬鹿にしているような二人の忠告だが、本当に正解だった。


タケシ「そういえばテルの原チャってそこそこいじってんの?」

テル「そうやなぁ、ZRほど早くはないけど」

ヤス「まだまだやわ。俺のZRで出るか?」

テル「それはどっちでもええんやけど」

タケシ「ポリ撒く時に、結構飛ばすタイミングあるから速い方がええで」

テル「70km/hくらいやったらきつい?」

タケシ「ギリギリかもしれんなぁ」

ヤス「じゃあZRで決定〜」


自分の原チャが遅いというレッテルを貼られたような気もしたが、事実は事実
という事でしぶしぶ了解をした。


テル「でも追いかけられたら小道に入って撒くんやろ?」

タケシ「原チャだけやったらそれでええねんけど、単車がメインやからな」

ヤス「何十台もの単車で小道に入ったら、絶対誰かこけるで」

テル「だから全開で撒くって事か?」

タケシ「ケツ持ちが時間稼ぎしてる間に全開で開いて、撒き道に入るねん」

テル「撒き道?」

ヤス「大体、ルートの中で絶対に撒ける道があるんやわ」

タケシ「とりあえず、遅れんように付いていけば大丈夫や」

テル「じゃあZRで(笑)」

ヤス「おっ、本間にそれでええんかぁ!?」

テル「次までにいじって速くするし」

タケシ「まぁ取り敢えずは様子見やな」

ヤス「そうそう。取り敢えずタオルだけ持って集合って事や」

テル「おおお。顔に巻くやつやな」

タケシ「別にタオルじゃなくてもええねんけどな(笑)」


くだらない事を話しているだけで2時間ほど経っただろうか。
この世界の人間と話している間は振られたばかりだという事をすっかり忘れていた。


テル「そういえば俺ってさっき振られたばっかやんなぁ…」

ヤス「なんや、忘れとったんかい」

テル「おお」


三宮へと折り返している最中の会話である。


ヤス「本間に人騒がせなやっちゃなぁ」

テル「あほか。ちょっと忘れとっただけで、かなり凹んでるわ」

ヤス「お前、本間に好きやったもんなぁ」

テル「こんな事になるなんか本気で思ってなかったからなぁ…」

ヤス「大丈夫やって。女なんかなんぼでもおるわ」

テル「そんなん分かってるわ。でもあいつじゃないとあかんねんって」

ヤス「あかんっ!!!」

テル「えっ?」


後ろを振り向くと、猛スピードでクラクションを鳴らしながらこっちへ
黒光りした車が近付いてくる…。


ヤス「狩りや!絶対落ちんなよ!!!」


第3章 『暴走』 第4話

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ヤス「あかんっ!!!」

テル「えっ?」


後ろを振り向くと、猛スピードでクラクションを鳴らしながらこっちへ
黒光りした車が近付いてくる…。


ヤス「狩りや!絶対落ちんなよ!!!」

テル「うっそやん、めっちゃヤ○ザ屋さんですやんか〜(涙)」

ヤス「できるだけ後ろ見んなよ!顔バレしたら、後でめんどくさいぞ!!!」

テル「ぬおお。めっちゃ近い…」


狩りの車の先端が、今にも原チャに当たりそうなほどベタベタに近付いている。

これが映画のワンシーンなら、ボンネットに飛び移って中の人間をやっつけるか
車を事故に導いて自分は飛び降りて助かるといったシーンなんだろうなぁと
意味の無い回想をしてみる。


ヤス「とりあえず43(ヨンサン)やから、不幸中の幸いや」

テル「なんでや!全然小道に逃げられへんやんけ」

ヤス「この逃げ方、前もやったやろ!」


といった途端、ヤスがとった行動は歩道の逆走だった。


テル「おお!こないだマサミチとかと走った時に使った奴やな!」

ヤス「国道はこれに限る。」


黒光りの車は急停止し、中にいた数人が車から降りてこっちを見ている。


ヤス「あれに連れて行かれたら、本間にエライコトになるで〜」

テル「おお…。想像したくもないわ」

ヤス「まだ当ててこんかっただけでもマシやな」

テル「当てられたら終わりですやん」

ヤス「まぁ今日は、おとなしく小道で帰ろか」


どうもヤンチャな乗り方をしていると、こういうトラブルが付き物らしい。
つい先日も、ヤスの後輩のバブ(HAWK2)で黒光りのベンツに追いかけられた
ばっかりだ…。

こういう世界の人間と一緒にいないと知りえない事であったが、当てられるのだけは
勘弁してほしいと心から思った瞬間であった。


ヤス「大体、ああいう事をやってくる奴は元々ヤンチャしとった人ばっかやわ」

テル「自分らもやっとったのに狩りをするって事かいな?」

ヤス「追いかけるだけの面白半分もおるし、頭おかしい奴は当ててくるし」

テル「どっちにしても最悪やな」

ヤス「中には本気で狂ってる奴がおるからなぁ。そういう時は死ぬ気で逃げるこっちゃ」

テル「言われんでもそうすると思うわ…」


今までのイメージでは、こういった世界において自分の身に危害が及ぶのは「けんか」と
「事故」だけだと思っていたが、新たに「狩り」という物がある事を改めて痛感した。


ヤス「さぁ、週末の追悼が楽しみやの〜♪」

テル「…。」


楽しみだった追悼が、何となく不安になってきたテルであった。


第3章 『暴走』 第5話

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まだ少し体が小刻みに震えていた。
同レベル、いや同年代の人間が相手であればそんな事もないのだろうが、明らかに
世界が違う人間に「的」にされる事に心と体は正直に反応していた。
当たり前のように言うヤスは平気なのだろうか?
根本的にこいつらとは神経が違っているんじゃないかとテルは感じていた。

テル「狩りって何が目的なん?」
ヤス「俺が聞きたいわ!」

ごもっともである。
しかし平然としているヤスが腑に落ちない。

テル「あの人らも昔は走ってたんよなぁ」
ヤス「そらそうやろうなぁ」
ヤス「でも、たまに現役の奴も混ざってんで」
テル「はあ?」
ヤス「面白半分って事やな」
テル「うざっ!!!」
ヤス「立場が変わるとって言ったら変やけど、車を運転しとって遭遇したらなぁ」
テル「気持ちが分かるってか?」
ヤス「なんか追いかけたくなるで(笑)」
テル「そんなもんかのぉ」

今思えば、ヤスという存在が非常に身近だったからこそ自分自身の考え方もどんどん
上書きされ、当たり前の基準が変わったのだろう。
友達の影響は大きいというが、まさにヤスはそうだった。
数ヶ月前までは、自分自身がこのような世界に首を突っ込むなんて夢にも思って
いなかったのだ。
それが今や、週末に控える追悼の事ばかりが頭に浮かんでいる。
いや、「これは絶対に駄目な事だ!」と拒否する事ができる人が大半であろう。
しかし当時のテルにはそれができなかった。とにかくバイクが好きだったのだ。
速く走る楽しみ方はもちろんだが、バイクの醍醐味である「音」という世界にも
非常に興味があったのだ。
あとは漫画の影響があったのも否定できない。
ご存知の方もいるかと思うが、当小説に稀に登場する「特攻の拓」である。
元々は真面目で誠実、いじめられっこの主人公が周囲の友人の影響で知らず知らずの
うちに暴走の世界に溶け込んでいく。
その中で出てくる単車や「音」の描写、改造や部品メーカーなどなど、漫画の世界と
現実世界が見事にマッチしていた事がテルの心をくすぐっていたのだろう。

ヤス「ほな、明日の夜に迎えに来るからタオル用意しとけよ」
テル「はいよっ!」

ついに追悼の日がやってくる。

第3章 『暴走』 第6話

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ついに追悼の日がやってきた。

当日の学校は、とても授業を受けるような精神状態ではなかった。
とにかく楽しみで、間違いなく朝まで起きている必要がある事を確信していたため
「体力温存」の意味も含めてずっと寝ていた。


先生「おい、あからさまに寝とらんとちゃんと聞かんかい」

テル「今日は無理!」

先生「何じゃそれ?ええかんげんにせーよお前」

テル「今日は勘弁!」

先生「あのなぁ…」

テル「zzz」


どう考えても寝にくいはずで、起きたら確実に腕とか足が痺れているにも関わらず、
学校の机はどうしてこんなに気持ちいいんだろう。

夢の中では空想の追悼暴走に参加していた。

大群となった単車が一斉に空ぶかしを行い、さらに対立している族と遭遇して
全員で乱闘が始まり…。


zzz…。


マサ「テル!学校終わったぞ!!!」

テル「んん???」

マサ「本気で寝とるやんけ」

テル「おおマサか。あれ?昼休みか?」

マサ「あほ。普通に学校終わったっちゅうねん」

テル「はあ?まだ昼飯食ってへんし」

マサ「当たり前やんけ。お前ず〜っと寝とったし(笑)」

テル「まじか!?本間に終わったん?」

マサ「ほんなら時計見てみろや」


3時30分!?


テル「あかん、右手が無くなった…」

マサ「あんだけ寝たらおかしくもなるわ」

テル「よっしゃ。右手は無くなったけど体力全開って感じやな」

マサ「あれ?もしかして噂の日は今日か?」

テル「そういう事やな」

マサ「お前捕まんなよ〜」

テル「ヤスが一緒やから何とかなるやろ」

マサ「大丈夫やとは思うけどなぁ」

テル「よっしゃ帰るかぁ」

マサ「本気で寝に来ただけやな(笑)」


帰り道、一般的な通学路から外れた通称タバコロードを通り、ダラダラと坂を下っていく。


テル「今日の夜中は寒そうやなぁ…」


第3章 『暴走』 第7話

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テル「今日の夜中は寒そうやなぁ…」
マサ「今でこんなに寒いねんから、夜なんか外に出ようとも思わんわ」
テル「いやほんまに。寒いを通り越して痺れてくるもんな」
マサ「何が楽しいんか俺にはさっぱり分からんわ」
色々な部分の考え方が似ており、またお互いの性格が絶妙にマッチしている二人
ではあったが、バイクの事に関しては全く理解し合えなかった二人だった。

逆にマサはバイクではなく、パーティーを主催したりといった方向で遊んでいた
のだが、テルはそっち方面に全然興味が無かった。
それはそれでお互いがお互いを冷静に評価し合えるため、最も理想的なコンビ
だったように思える。
マサ「ちなみに追悼ってどこ走るん?」
テル「いや、俺も初めて参加するから知らんねん。多分43(ヨンサン)ちゃう?」
マサ「43なぁ。大阪くらいでUターンするんか」
テル「それくらいでUターンするやろなぁ」

目の前を公立中学生の4人連れが通り過ぎていく。
さっきまでは相応に馬鹿げた会話などをして楽しそうにしていたであろう余韻を
残しながら、こちらを気にしながらそそくさと無言で立ち去った。
テル「なんかなぁ…」
マサ「どないしてん?」
テル「いや、俺もあの子らと同じような気持ちになった事あるなぁって思ってな」
マサ「なんじゃそれ?」
テル「自覚はないけど、多分俺らって中学生とかから見たらそれなりの雰囲気やで」
マサ「いやいや、だってお前は完全にヤンキーやもん」
テル「はぁ?よう言うわほんま」
マサ「俺なんかかわいいもんやで」
テル「お前なんか完全に輩(やから)やんけ」
着地点のない話しをしながら、テルは彼らがまだ想像もしていないような世界に
自ら足を踏み入る事になるんだと心で感じていた。

テル「ほなまたな」
マサ「おお、捕まんなよ」
テル「じゃあ捕まってなかったら明日電話するわ(笑)」
マサ「はいよ」
電車に乗り、色々とイメージトレーニングをしながら目的の駅で降りる。
なぜかこの日は、全ての人が「普通の人」に見えた。
自分が凄いという意味ではなく、社会のルールから逸脱した人間としての目で
全てが見えていたのだ。
愛車の駐車場へ行き、面倒くさそうな雰囲気を出しながらエンジンをかける。
テル「あれ?なんか音が大きくなってる気がするなぁ…」
この時はまだ、事の重大さにテルは気づいていなかった。

第3章 『暴走』 第8話

JUGEMテーマ:車/バイク

愛車の駐車場へ行き、面倒くさそうな雰囲気を出しながらエンジンをかける。
テル「あれ?なんか音が大きくなってる気がするなぁ…」
この時はまだ、事の重大さにテルは気づいていなかった。

ヘルメットを首にかけ、いつもの道を通り、いつもの走り方で家へと向かう。
しかし長い上り坂でいつもと違う事に気が付く。
「あれ?55kmしか出てへんやん…」
いつもは軽く70km近くは出るポイントであったが、明らかに速度が遅い。
しかしマフラーの音が少し大きい気がする程度で、他に違和感はあまり感じない。
「あんまり気にしたらあかんな。後でヤスに見てもらうか」
何となく調子が悪い事を認識しつつ、深く考えずに愛車を家の前に駐車する。
今日は朝まで起きる事は分かりきっていたので、とにかく早く仮眠を取っておきたい。
家に入ると、いつもは母と会話するでもなく一直線に部屋へ入るのだが、珍しく
母がリビングで疲れた様子で横たわっている。
テル「どないしたん?」
母「最近なんか調子悪いんよ。更年期ってやつかなぁ?」
テル「こうねんき?よう分からんけど…」
母「ようするに年とったって事!」
テル「まぁ嫌でも年はとるわなぁ」
母「はぁ…。取りあえず少しの間休むわ」
テル「はいはい」

そうか。普段意識はしていないが、母もすでに40代後半である。
疲れが溜まって…という事もあるのだろう。
部屋に戻り、すぐに目覚まし時計を夜の9時にセットする。
コタツに全身を突っ込んで寝転びながらTVを見ていると自然に眠気がやってくる。
なんて気持ちいいんだろう…。
そういえば間違いなく寒いだろうから、ジャージの下に色々着こんで行こう。
どれくらいの台数が来るんだろうか?
根本的に暴走族と思われるような単車をほとんど見かけた事がないが、実際に
数十台も集まるなんて事はあるのだろうか?
漫画でよく登場するRPM管を入れた単車は来るだろうか?
そういえばヤスはスネーク管の音が最高って言ってたな。
はぁ。真美ちゃんは今頃何をしてるんだろう。
俺の事なんか頭によぎったりしないんだろうなぁ。
そういえば最近、スケボー全然やってないなぁ。
あかん寝れへん…。
でも寝とかな絶対しんどい。
色々考えるから寝れへんのや。
そうそう、無心になれ。
…。
 
ピピピピ…
 
「もう9時か!?」

第3章 『暴走』 第9話

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ピピピピ…

「もう9時か!?」

色々な事が頭をよぎり、全く寝ることができなかった。
もう少し時間があれば寝れそうな気もするが、今から寝たら絶対に寝過ごす。
まるで徹夜明けのように頭がぼ〜っとしているのが分かる。
今からシャワーに入って準備をしてしまうと、明らかに今から出て行く事を堂々と
アピールする事になる。
かと言って時間的にもヤスが迎えに来る時間まであと1時間ほどしかない。

取りあえず今の状況を確認しにいくため、部屋を出てみる。
母はどうやら本当にしんどいらしく、早々に寝ているようだ。

父「おう。なんや起きたんか」
テル「おお…」

父はもう帰ってきているようだ。
しかも普通にお酒を飲んでいる感じをみると、まだ寝る雰囲気は全然ない。
テル「おかん大丈夫なん?」
父「おお、なんや調子悪そうやのぉ」
テル「こうねんき?やからとか言ってたけど」
父「そう言ってたけどなぁ。取りあえず胃薬飲んでたわ」
テル「そうか」
父「元々あんまり体も強い方とちゃうからな」
テル「せやな」
父「お前も若いからって調子乗っとったら体壊すぞ」
テル「わかってるって。今からシャワー入ってまた寝るし」
父「おおそうせえ」※そうしなさい

さすがに酒を飲んでるだけあって延々と会話が続きそうだ。
取りあえずシャワーに入る口実は出来たから、ちゃっちゃと入ってしまおう。

さむっ!!!

シャワーが温まるまでの時間が罰ゲームのようだ。
しかし今から朝まで外で寒い思いをするのだから、今のうちに限界まで温まっておこう。
シャワーを限界まで熱くし、目をつぶって延々と浴び続ける。
その時は着々と近付いているのだ。
20分ほどシャワーを浴びた後、風呂場を出る。
体を拭きながら外の様子を伺ってみたが、どうやらまだ父は起きているようだ。
ここは焦っても仕方が無い。
取りあえず寝る姿で部屋に入り、部屋で改めて着替えて窓から外に出るしかない。
風呂場から白いタオルを1枚取り、服の下に忍ばせてそそくさと部屋へ入った。

約束の時間まであと20分。

部屋の鍵をかけ、テレビを付けて外部から中の様子が分かりにくい状態を作る。
風通しが悪いズボンを2枚はき、上着はガッツリと着込んだ。
そうだ、靴下も2枚履いておこう。

部屋の電気を暗くし、あと10分になった時に重大な事に気が付いた。
「靴を玄関に置いたままだ…」

第3章 『暴走』 第10話

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部屋の電気を暗くし、あと10分になった時に重大な事に気が付いた。

「靴を玄関に置いたままだ…」

玄関と自分の部屋との間を通ると確実に父と遭遇する。
その時に靴を手にしていれば怪しい以外の何物でもない…。

かといって玄関を開けようとすると、鍵を開錠したカチャ音が嫌がらせのように
響き渡るのは防ぎようが無い。

いつもの自分の行動パターンを振り返り、何をすれば一番自然な成り行きで玄関に
近付く事ができるか必死に考えた。


「午後ティーや!!!」


当時のテルは午後の紅茶(ミルクティー)が大好きで、寒い時期になると自動販売機
によく買いに行っている。
という事は、午後ティーを買いに行く流れで靴を外に用意しておけばバッチリのはずだ。

もう時間も無いので、すぐに行動を開始した。

玄関で靴を手に持っている所を見られないため、部屋を出て父がいるリビングを通過する際に
こちら側から先に

「ちょっと午後ティー買って来るわ」

と切り出した。

父「お?なんや、寝るんちゃうんかい?」

まぁまぁ想定範囲の切り返し。

テル「なんか無性に飲みたくなったから」

父「おおそうか」

よし、第一関門突破。

そそくさと玄関へ向かい、あえて玄関の電気を付けずにいつもと違う靴を履く。
特に玄関へ来る様子は無さそうだ。

そしていつもの靴を手に取り、胸の鼓動を感じながら玄関を出た。

「ガチャッ! バタン」

成功だ…。

足早に家の脇にある繁みに靴を隠し、小走りで午後ティーを買いに行く。

「別に飲みたくないねんけどなぁ…」

こういうのを必要経費というのだろう。

人通りが少なく真っ暗な路地に自動販売機が3台並んで周囲を明るく照らしている。
小さな虫がその明かりに集まっており、目の前をチラチラ飛び回る。
目を半開きにして顔を斜めにし、軽い嫌悪感を抱きながら午後ティーを購入する。

「熱っ!!!」

あんまり売れていない自動販売機というのは何となく分かっているが、相当熱い。

袖を使って熱々になった午後ティーを掴み、耳が痛い寒空の下を走り抜ける。

「う〜、耳痛いなぁ…」

玄関を開け、そそくさと部屋に戻る。
父は何か考え事でもしているのだろうか、特に声を掛ける事もなかった。

真っ暗な部屋に電気を付け、改めて外に出る準備をする。
もう5分もすればヤスが来るはずだ。

中の様子が分からないようにテレビを付け、部屋の窓を開けて外の音に耳を傾ける。

「プップッ♪」

ホーンの音か?

外を見るとヤスがタオルを首に掛けて待機しているのが見える。

「よっしゃ、行くか」


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